TGR2019


TGR2019【新人賞】講評

■ポケット企画「おもり」

まず、劇場に入った時から聞こえてくる音楽が、作品の世界へ入り込む手助けをしてくれます。雑然とした舞台に立つ演者と音楽が上手に融合し、作品をまとめあげている印象を受けました。

彼ら彼女らの世代から見た、一種のモラトリアムを、音楽の力を借りて上手に表現していると感じました。

全体として、とても完成度が高く、自分たちが「やりたいこと」をしっかりと見据え、丁寧に作り上げてきたのだと思わせる作品でした。また、滑舌がとてもよく、聞き取れないセリフがない。という当たり前の基本をしっかりと積み重ねている方たちだと感じました。どれだけ優れた脚本であっても、セリフが聞き取れないというのは観客にとって非常にストレスを感じるものです。基本をおざなりにしない誠実な作品づくりの姿勢がとても好印象でした。

作品としては、不条理劇に分類されるでしょうか。丁寧に芝居を作っている反面、脚本としてはまだまだ言葉選びや表現に拙さを感じる部分もあり、もっと説得力を持たせられるように磨いていってもらいたいと思います。

また、生演奏が単なるBGMにとどまらず、環境音やSE、情景を表すツールとしてしっかりと取り入れられていたことは素晴らしく、十分評価に値しますが、シアターZOOの空間を活かすためには盛り込みすぎかな、という印象でした。本当に伝えたかったものを伝えるときに、少し障害となっていたのではないでしょうか。

今後も自分たちが目指す先を見据え、見せたいものを見失わず、それでいて“ポケット“のサイズを空間に合わせて自在に変えていける、そんな柔軟性をもって作品に向かい合っていくことを願っています。

■MoB stud!o「ミュージカル Little Step」

一番大きな印象として、最後までしっかりと飽きずに楽しむことができる2時間だったと言えると思います。

子供たちのひたむきさ、一生懸命さ、華やかな衣装や照明など、出演している子供たちをいかに輝かせるか、ということに力が注がれている作品だと感じました。出演者一人一人が自信を持って舞台に立っていると同時に、それをサポートする大人の演者もしっかりと技量を持っているな、という印象を受けました。観客のみなさんも、とても温かく見守っていて、それぞれが作品に満足していらっしゃるように見えました。

反面、大人たちの存在感とストーリー上での役割の大きさが、メインの子どもたちと拮抗してしまっていたように感じました。子どもたちをより輝かせるためにも、大人の露出を控え、演出上の見せ方を工夫して欲しいところです。また、場面転換や演出が単調なため、ストーリーに入り込みきれない引っ掛かりを感じる場面が多く、全体を通すと物足りなさを感じました。

また、舞台は、音響、照明、美術、演者など様々な要素が複合した総合芸術です。衣装やダンスの出来上がりに比べて、舞台美術や演出効果に粗が目立っていたことが悔やまれました。

今後も、ショーミュージカルとしての更なる躍進を期待しています。

■十一匹のネコ

確かな技術が求められるこの脚本に挑んだ彼女たちには拍手を送りたい気持ちでいっぱいです。

何度観ても、あの結末には胸が締め付けられてしまいます。約50年も前に書かれたにもかかわらず、いつの時代にも通じる普遍的なテーマが描かれているこの脚本は、“音楽”と “言葉あそび“を巧みに使ってネコたちが社会風刺を痛烈に歌い上げています。

歌はもちろん、ダンスもふんだんに取り入れられているこの音楽劇を演じきったにゃん太郎・にゃん十一をはじめ、すべてのネコたちが溌剌とした演技で終末へと向かっていく様子は素晴らしいものでしたが、後半に向けて息切れしてしまった感が見受けられました。前半の期待感があっただけに、魚を骨だけにしてしまった時の衝撃、そしてユートピアを追い求め続けた者の悲しい末路、そういったどんでん返しが効果的に描き切れていなかったことが非常に惜しまれます

普遍的なテーマとはいえ、「ベトナム戦争」などの細かい背景が、この現代で、現代の若者たちが演じる上での“ずれ”を感じました。この作品を上演するのであれば、テーマを見失わないことはもちろんのこと、その上での演出の工夫や、時代考証などがもう一つ足りないような印象でした。

この難しい作品に挑み、見事に演じきったキャスト・黒子のみなさんの、来年以降の活躍が非常に楽しみです。

■み・ん・な・の・お・し・ば・い

高校の演劇部として初めて賞にエントリーし、見事な作品を見せてくれました。

まず、何と言っても先生役の2人の高校生とは思えない安定感、存在感がステージ全体を引き締め、しっかりと芝居を牽引していくさまは素晴らしいものでした。もちろん、それを支える部員や仲間、ストーリーテラーのストップウォッチも重要な役割をきっちりと果たし、ひとつの作品を作り上げていました。

万人に伝わるハートフルなストーリーを、主軸の2人が引っ張ることでしっかりと描き切っていたと思います。

惜しまれるのは、パトスという会場を想定した作品・演出ではなく、大きなホールでの上演を考えた演出でまとまっていた印象を受けたことでしょうか。照明の綺麗さ、テンポや芝居のリズム、どれを取っても、客席との距離が近くて天井も低いパトスでは本来の良さを活かし切れていなかったように思います。

結果として、単調で起伏に欠け、照明の移り変わりは目まぐるしいが印象が薄く、伝わるまでの距離が近いことによりスピード感に物足りなさを感じてしまいました。

高校生ならではの自由さや柔軟さ、数々の演劇を観て体験している生徒たちの経験を存分に活かし、高校演劇の枠に囚われない表現をする彼ら彼女らを観てみたいと思わせる座組でした。今後の活躍が楽しみです。

■GOING STEADY

壮大な長編コント。この作品の印象をまとめるとこの一言に尽きると思います。

バカバカしさ、汗臭さをふんだんに盛り込んだこの作品は、わかりやすいストーリーと個性的なキャラクターが言葉の応酬を積み重ねてラストまで走り抜ける嵐のようでした。

出演者もみな上手で、一つ一つしっかりとネタを積み重ねて、観る者を退屈させない構成だったと思います。言葉選びに脚本家のこだわりを感じさせ、伏線を回収していくことで、しっかりと笑わせてくれる作品でした。

全体としては面白く観ることができましたが、“期間限定・年齢制限あり”の笑いも多く、一度取り残されると最後まで置いて行かれてしまう危うさを感じました。TGRの作品が必ずしも全年齢向けの作品でなければならないことはありませんが、これだけ言葉を巧みに操り、ストーリーも見せられる脚本を書けるのであれば、「身内ウケ」から一歩踏み出した作品を作って欲しいなと考えてしまいます。

また、作品上「窓」が関係することが多く、必然的に注目を浴びやすい箇所であるのに、舞台美術の窓にシワが寄っているなど、もったいないと思える点が多くありました。窓から差し込む光にシワの影が映り込むことで「作り物」であることを思い出させ、物語から一歩引いてしまう要因にもなっていたように思います。

全体的にはよくまとまっており、所属するメンバーも魅力的な役者が揃っていることもあって、来年が楽しみな団体になりそうです。

 

2019年は総じてレベルが高く感じました。

それぞれ良さはありつつも、まだまだと感じる点も多くありました。

しかし、10代~20代前半の若者が大半を占める団体が活躍していることを非常に嬉しく感じるとともに、これからの躍進に期待が高まる5団体でした。

Category: TGR2019 

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